「売上が伸びてきたので、会社にしたほうがいいと言われた」「法人成りするなら、いつがいいのか」——個人事業主の方から、よくいただくご相談です。
法人成り(法人化)とは、個人事業主が会社を設立し、事業を会社に移すことです。法人成りは、一度切り替えると元に戻しにくい判断です。「所得がいくらを超えたら法人」という目安だけでは決まらず、社会保険料や消費税まで含めて比べると、答えが逆になることもあります。2026年は、インボイスの特例と、税務署に出す個人事業の廃業届の期限にも変更がありました。
この記事では、判断に使う5つの材料と、切り替える年に何をどの順番で進めるかを、熊本の提出先にあわせて整理します。会社設立の手続きそのものは熊本で会社を設立する流れ|届出先と期限を税理士が整理しましたで詳しく扱っています。
法人成りで何が変わるか
| 個人事業 | 会社(法人) | |
|---|---|---|
| 利益にかかる税 | 所得税(5〜45%の累進)+住民税(所得割10%)+個人事業税(法律で定める業種だけ) | 法人税(中小法人は年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%)+地方法人税・法人住民税・法人事業税など |
| 事業主の受け取り方 | 利益(収入−必要経費)が事業所得。青色申告なら青色申告特別控除あり | 会社から役員報酬を受け取る。報酬には給与所得控除がある |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金(社長1人でも原則加入。会社と本人で折半) |
| 赤字の年 | ほかに所得がなければ、その年の所得税も、翌年度の住民税(所得割・均等割とも)もかからない。給与などほかの所得があれば、赤字を差し引いた残りに課税される | 法人住民税の均等割がかかる(熊本市内なら年81,000円〜) |
| 赤字の繰越し | 青色申告の年の赤字を原則3年(会社には引き継げない) | 青色申告の期の赤字を10年 |
| 事務 | 確定申告(課税事業者なら消費税の申告も。人を雇っていれば源泉徴収・年末調整も) | 決算と法人税などの申告(課税事業者なら消費税も)、社長1人でも役員報酬の源泉徴収・年末調整、社会保険の手続き |
個人事業税は、法律で定められた業種(物品販売・飲食店・請負・不動産貸付・コンサルタント・デザインなど約70業種)の所得にだけかかります。年290万円の事業主控除(事業をした期間が1年未満の年は月割り)を差し引いた所得に、原則として5%(畜産・水産などは4%、あん摩・はり・きゅうなどは3%)です(熊本県の案内)。対象外の業種なら、個人のままでも個人事業税はかかりません。住民税は前年の所得で計算するため、赤字の年にも前年分の住民税は納めます。熊本市では、扶養親族がいなければ、前年の合計所得金額が41万5,000円以下のとき、住民税の均等割もかかりません(熊本市の案内)。
法人税の15%は、資本金1億円以下の中小法人の所得のうち年800万円以下の部分に対する特例で、2027年3月31日までに始まる事業年度が対象です(租税特別措置法第42条の3の2)。延長されなければ、それ以後に始まる事業年度は本来の19%になります。所得が年10億円を超える事業年度は17%になり、資本金5億円以上の大法人の100%子会社などは対象外です(国税庁 No.5759)。この800万円は事業年度が12か月の場合の額です。設立した第1期のように事業年度が1年に満たないときは、800万円を12で割って月数を掛けた額になります(6か月なら400万円。1か月未満の端数は1か月。法人税法第66条第4項・第12項)。
2026年4月1日以後に始まる事業年度からは、防衛特別法人税(税率4%)もかかります。法人税額(所得税額控除などを差し引く前)から基礎控除の年500万円を差し引いて計算するため、この法人税額が500万円以下なら税額は0円です(0円でも申告は必要です)。事業年度が1年に満たないときは、この500万円も月数で按分します(6か月なら250万円。国税庁「防衛特別法人税が創設されました」)。
個人事業で残った赤字(青色申告の年に出た純損失)は、会社には引き継げません。ただし個人の側で消えるわけではなく、繰越しの残りの期間は、社長個人の役員報酬(給与所得)などから差し引けます。そのためには、その後も毎年続けて確定申告書を出す必要があり、役員報酬が年末調整だけで済む年も確定申告をします(所得税法第70条)。会社の欠損金を10年繰り越すのにも、毎期続けて確定申告書を出すことが条件です(国税庁 No.5762)。
なお、令和8年熊本地震は2026年8月7日に特定非常災害に指定されました(国税庁の案内)。この地震で事業用の資産に損害を受けた場合、2026年に生じた純損失のうち地震による損失の分は、5年間繰り越せます。2026年分を青色申告していて、地震による事業用の資産(棚卸資産を含む)の損失額が、事業用の固定資産の価額の10%以上なら、2026年の純損失の全部が5年間の対象です(所得税法第70条の2)。申告期限が延長された4市町以外の方も対象です。
判断の材料は5つ
1. 税の差:累進課税と、役員報酬の給与所得控除
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がります。課税所得695万円を超える部分は23%、900万円を超える部分は33%で、これに住民税10%と、所得税額の2.1%の復興特別所得税が加わります。2027年分からは復興特別所得税と防衛特別所得税の2つに分かれますが、合計の2.1%は変わりません(国税庁 No.2260)。
会社にすると、利益を役員報酬として受け取る分と会社に残す分に分けられます。役員報酬には給与所得控除があり(給与収入が850万円を超えると195万円で頭打ち。国税庁 No.1410)、会社に残す分には法人税などがかかります。個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がるため、所得が大きくなるほど、この分け方で合計の税負担に差が出やすくなります。健康保険・厚生年金の保険料は役員報酬にかかり、会社に残す分にはかからないため、分け方で社会保険料の額も変わります。
一方、個人のままなら、事業所得から青色申告特別控除(最高65万円。国税庁 No.2072)を差し引けますが、会社にするとこの控除は使えなくなります。2027年分以後は、e-Taxで申告したうえで優良な電子帳簿の保存などの要件を満たせば最高75万円になり、書面で申告すると最高10万円になります(国税庁「75万円の青色申告特別控除を受けるためには」)。家族に払う給与で所得を分ける方法も、個人(青色事業専従者給与)と会社(役員報酬・給与)で要件が違います。個人のまま続ける場合の節税は、個人事業主の節税ポイント|青色申告から賃上げ促進税制まで税理士が解説で整理しています。
また、会社にした場合、役員報酬を会社の経費(損金)にするには、原則として事業年度の開始から3か月以内に額を決め、その後は毎月同じ額で払う必要があります(定期同額給与。国税庁 No.5211)。役職の変更などの事情がないのに期の途中で増やした分は、経費になりません。役員賞与も、事前に税務署へ届け出た額と時期のとおりに払うもの(事前確定届出給与)以外は、原則として経費になりません。利益の出方を見てから報酬を増やして税を調整することはできない、と考えてください。会社に残したお金を個人で使うには、役員報酬や配当として受け取り直す必要があり、そのときにまた税がかかります。生活費として全部使うのか、会社に残して投資に回すのかで、有利不利が変わります。
→ 役員報酬の決め方は、役員報酬の決め方|期中に変えられない理由と決め方の手順で詳しく扱っています。
2. 社会保険料:税の差が縮む、または逆転することもある
会社は、社長1人だけでも原則として健康保険・厚生年金の適用事業所になります。 日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所を「事業主のみの場合を含む」強制適用事業所と説明しています(日本年金機構の案内)。役員報酬を受ける社長は原則として被保険者になります。役員報酬を支払わない場合などの扱いは、個別の確認が必要です。
全国健康保険協会 熊本支部の2026年度の保険料率は次のとおりで、会社と本人が半分ずつ負担します(協会けんぽ 熊本支部の保険料額表)。
| 保険料 | 料率 |
|---|---|
| 健康保険 | 10.08% |
| 介護保険(40〜64歳) | 1.62% |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% |
| 厚生年金 | 18.300% |
40〜64歳の社長なら、会社と本人を合わせて報酬のおおむね30%前後(約30.2%。40歳未満は介護保険料がないため約28.6%)になります。ただし保険料は、実際の報酬ではなく、報酬を区切りの額に当てはめた「標準報酬月額」にかかります。厚生年金の標準報酬月額は65万円(報酬月額63万5,000円以上)が上限です(2027年9月から68万円、その後75万円まで段階的に引上げ)。役員報酬がこれを超えると、報酬に対する割合は下がります(40〜64歳で月100万円ならおおむね24%)。このほか、表の「子ども・子育て支援金」とは別に、「子ども・子育て拠出金」(0.36%)を会社だけが負担します。個人事業の国民健康保険(所得に応じて決まり、上限あり)と国民年金(定額)から切り替わるため、役員報酬の額によっては、税で得をした分が社会保険料で消えることがあります。
一方で、個人事業の国民健康保険は、所得に応じた所得割に加えて、加入者1人ごとの均等割と世帯ごとの平等割がかかります(熊本市の2026年度の上限は年113万円。熊本市の案内)。国民年金も、20〜59歳の配偶者などが1人ずつ定額(2026年度は月17,920円)を納めます。会社の健康保険では、収入の少ない配偶者や子を被扶養者にでき、その分の保険料はかかりません。社長に扶養される20〜59歳の配偶者(原則として年収130万円未満など)は国民年金の第3号被保険者になり、自分で保険料を納める必要がなくなります。また、会社負担分は会社の経費(損金)になり、本人負担分は社会保険料控除の対象です。家族構成と役員報酬の額によって社会保険料の差は大きく変わり、会社にしたほうが合計が下がることもあります。
また、厚生年金に入ることで将来の年金額が増える面もあります。負担だけでなく、何に備えたいかもあわせて考えてください。社会保険の加入手続き(新規適用届・社長の資格取得届など)は、会社(事業主)が、適用事業所になった日から5日以内に、管轄の年金事務所または事務センターへ届け出ます(電子申請・郵送・窓口のいずれも可。日本年金機構「新規適用の手続き」)。手続きの代行を頼む場合は、原則として社会保険労務士が担当する業務です(当法人ではお受けしていません)。
3. 消費税:2026年10月以後に設立する会社は、2割特例も3割特例も使えない
会社の第1期・第2期には基準期間(前々事業年度)がないため、それぞれの期首の資本金が1,000万円未満であれば、原則として消費税の納税義務が免除されます。個人事業のときの売上は、会社の基準期間の売上には含めません(国税庁 No.6503・No.6531)。ただし、個人事業のときの課税売上高が5億円を超えていた方などは、下の「特定新規設立法人」に当たることがあります。
次の場合は免税になりません(課税事業者になる時期は、場合によって異なります)。
- インボイス発行事業者の登録をした(登録日から。設立した期の末日までに「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を書いて申請すれば、設立日から)
- 第2期で、特定期間(原則として第1期の最初の6か月)の課税売上高と給与等の支払額が、どちらも1,000万円を超えた
- 第1期の途中で増資して、第2期の期首の資本金が1,000万円以上になった(第2期から)
- 課税事業者を選ぶ届出をした
- 特定新規設立法人に当たる:会社の株式の50%超を持つ人(親族などの持ち分や、その人が全株を持つ会社の持ち分も合わせて数えます)か、その人が全株を持つ会社のいずれかについて、課税売上高が5億円を超えている(国外分を含む総収入金額が50億円を超えている場合も同じ)。大きな会社の子会社のほか、個人事業のときの課税売上高が5億円を超えていた方の法人成りも、時期によっては当たります(判定に使う期間は、会社の期ごとに決まっています)(国税庁 No.6503)
取引先が事業者中心なら、会社としてもインボイスの登録が必要になることが多く、その場合は免税の期間があっても消費税の申告が必要です。
ここで注意したいのが、2026年10月以後に設立する会社の扱いです。
- インボイスの2割特例は使えません。 2割特例は、もともと2023年10月1日から2026年9月30日までの日を含む課税期間に限った経過措置で、令和8年度税制改正でも延長されていないためです
- 令和8年度税制改正でできた3割特例は、個人事業者だけの制度です。 会社は使えません(国税庁「令和8年度税制改正特集」)
個人事業のままインボイスに登録している方は、2027年分・2028年分に3割特例(納める消費税を、売上にかかる消費税の3割とする特例)を使える場合があります。ただし使えるのは、インボイスに登録していなければ免税事業者だった年に限られます。基準期間(その年の2年前)の課税売上高が1,000万円を超える年や、特定期間(前年の1〜6月)の課税売上高と給与等の支払額がどちらも1,000万円を超えた年などは使えません(国税庁 インボイスQ&A 問115-2)。たとえば2025年の課税売上高が1,000万円を超えていれば、2027年分は使えません。3割特例を使える方が会社にすると、会社としてインボイスに登録するなどして課税事業者になった期は、一般課税か簡易課税で申告することになるため、消費税の負担が増えることがあります(インボイスに登録せず免税事業者でいる期間は、消費税の申告はありません)。
設立初年度から簡易課税を選ぶ場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を設立した事業年度の末日までに出せば、その期から使えます。一方、設立した期など、一般課税で申告する期に設備などを買うと、一定期間は簡易課税を選べなくなることがあります。当てはまるのは、課税事業者を選ぶ届出をして課税事業者になった会社や、資本金1,000万円以上で設立した会社などが100万円以上の設備などを買ったときと、会社の種類を問わず1,000万円以上の設備などを買ったときです。設備投資の予定があれば、設立前にご相談ください。
→ 免税事業者からの仕入れの扱いは、インボイスの経過措置は2026年10月から7割にで整理しています。
4. 取引先・信用・資金調達
- 取引先が、会社との取引や契約を条件にしている
- 金融機関からの借入れや、公的な制度融資を使う予定がある
- 人を採用する予定があり、会社のほうが応募を集めやすい
こうした事情は、税の損得とは別に法人成りの理由になります。創業融資は日本政策金融公庫と熊本の制度融資の比較にまとめています。
5. 事務と費用
設立するとき
| 費用 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 資本金の0.7%(最低15万円) | 資本金の0.7%(最低6万円) |
| 定款の認証手数料 | 1万5,000円〜5万円 | 不要 |
| 定款の収入印紙 | 紙なら4万円(電子定款なら不要) | 同左 |
熊本市で設立する場合は、市の特定創業支援等事業を使うと登録免許税が半分(資本金の0.35%)になります(株式会社は最低7万5,000円、合同会社は最低3万円)。この軽減は、2027年3月31日までに受ける設立登記が対象です(2026年10月時点の法令。租税特別措置法第80条第3項)。対象はこれから創業する方か、創業から5年以内の方です(2社目以降の創業は原則として対象外)。法人成りの場合は、個人事業の開業日(税務署に出した開業届の開業日)から5年を経過する前に設立登記を受けることが条件です。証明書を5年以内に取っていても、設立登記が5年を過ぎると軽減は受けられません(中小企業庁「創業支援等事業計画のガイドライン」「同 Q&A集」)。代表者ご本人が、熊本市と連携する支援事業者(熊本商工会議所など)の講座を修了し(経営・財務・人材育成・販路開拓を学ぶもので、原則として4回以上・1か月以上)、市に証明書を申請して、設立登記の申請書に添付します(熊本市の案内)。講座は開催時期が決まっているものが多く、証明書も申請から発行までおおむね1週間かかるため、設立日から逆算して受講してください。個人事業の開業から5年が近い方は、講座の修了・証明書の発行・設立登記までを、開業日から5年を経過する前(かつ2027年3月31日まで)に終えられるよう、早めに受講してください。証明書の有効期限は、受け取った証明書で確認してください。熊本市の証明書は、熊本市以外での設立には使えません。
→ 株式会社と合同会社の違いは、合同会社と株式会社の違い|設立費用・税金・信用を税理士が比較で比較しています。
設立したあと毎年
- 法人住民税の均等割:熊本市内に事務所を置き、資本金等の額(設立したばかりの会社なら、資本金と資本準備金の合計)が1,000万円以下で、従業者が50人以下の会社なら、熊本県21,000円+熊本市60,000円で年81,000円。赤字でもかかります(熊本県の案内・熊本市の案内)。消費税の免税は資本金で判定しますが、均等割は資本準備金を含めた額で判定します。そのため、資本金を1,000万円未満にしても、出資の合計が1,000万円を超えると年208,500円(熊本県52,500円+熊本市156,000円。1億円以下・従業者50人以下の場合)になります。設立した事業年度は、事務所を置いていた月数で月割りします。熊本市は区ごとにかかるため、2つの区に事務所があれば2区分です
- 決算・法人税などの申告と、その費用
- 役員報酬の源泉徴収・年末調整、社会保険の手続き
- 会社のお金と個人のお金を分けて管理する手間
「所得800万円」の目安をどう使うか
「所得が800万円を超えたら法人化」といった目安が出回っていますが、社会保険料と消費税、均等割まで入れると当てはまらないことがあります。
「800万円」という数字は、会社の法人税の税率が年800万円以下の所得で15%、超える部分で23.2%に分かれていることや、個人の所得税の税率が課税所得695万円超で23%、900万円超で33%に上がることから、個人と会社の税率が入れ替わるあたりの目安として語られることが多いものです。ただし、この比べ方には社会保険料・消費税・均等割が入っていません。目安は試算を始めるきっかけにとどめ、次の順で実際の数字を比べてください。
今年と来年以降の所得の見込みを出す
1年だけの数字で決めず、2〜3年の見込みで考えます。
役員報酬と、会社に残す利益の配分を決める
生活に必要な額と、会社に残して使う額を分けます。
個人のままの場合と、会社にした場合の税と社会保険料を合計する
所得税・住民税・個人事業税(対象の業種の場合)・国民健康保険・国民年金(家族の分を含む)と、法人税などの会社の税金・役員報酬にかかる所得税・住民税・健康保険・厚生年金を並べます。
消費税の計算方法と負担を比べる
個人のままなら3割特例を使えるか、会社にするなら一般課税と簡易課税のどちらにするかを比べます。
設立と運営の費用を差し引く
設立の実費、毎年の均等割、決算・申告の費用を入れて、最終的に手元に残るお金で比べます。
切り替える時期の決め方
- 設立日と決算月:決算月は繁忙期を避けるのが基本です。あわせて、第1期の長さで消費税の判定が変わるため、設立日との組み合わせは設立前に試算して決めます。第1期が7か月以下なら、第2期の判定に使う特定期間がありません。そのため、第1期の売上や給与が1,000万円を超えても、それだけで第2期が課税事業者になることはありません(国税庁 質疑応答事例「特定期間の判定」)。一方で、第1期が短いほど免税でいられる期間は短くなり、第3期の判定では第1期の売上を12か月分に換算します。法人税の15%が使える800万円の枠も、第1期の月数に応じて小さくなります。第1期が極端に短いと、設立してすぐに最初の決算と申告も来ます
- 熊本市の証明書を使う場合:講座の日程と、証明書が出るまでの日数(おおむね1週間)から設立日を逆算します。登録免許税の軽減は2027年3月31日までの登記が対象です。法人成りの場合は、個人事業の開業日から5年を経過する前に設立登記を申請します
- 年の途中で切り替える場合:切り替えた年の分は、個人の確定申告(1月1日から廃業した日までの事業所得と、会社から受け取った役員報酬などを合わせた1年分。翌年3月15日まで)と、会社の第1期の決算・申告(第1期の末日の翌日から2か月以内)の両方があります。個人で消費税の課税事業者だった場合(インボイスに登録していた方を含む)は、個人の消費税の申告(翌年3月31日まで)も必要です。決算月によっては時期が重なるため、事務が重なる時期を見込んでおきます
- 取引先への連絡:契約の名義、請求書の宛先・振込先、インボイスの登録番号が変わります。インボイスの登録番号は個人と会社で別です
- 許認可:許認可は受けた人ごとに与えられるため、会社で取り直しが必要なものが多くあります。ただし、建設業許可(事業を移す前に譲渡の認可を受ける)や飲食店などの営業許可(営業を譲り受けた会社が届け出る)のように、会社へ引き継げるものもあります。事前の手続きが要るものもあるので、切り替える日を決める前に、許可を受けた窓口で確認してください。申請はご自身でも行えます。書類の作成や申請の代理を頼む場合は、原則として行政書士の業務です(労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可は社会保険労務士の業務です)
個人事業から会社へ移す手順
試算して、会社の形・資本金・決算月・役員報酬を決める
上の「所得800万円の目安をどう使うか」の手順で試算します。
熊本市で設立するなら、特定創業支援等事業の証明書を取る
登録免許税を半分にするには、設立登記の申請書に証明書を添付する必要があります。講座の修了に1か月以上、証明書の発行におおむね1週間かかるため、設立日から逆算して受講します(軽減は2027年3月31日までの登記が対象。法人成りの場合は、個人事業の開業日から5年を経過する前の登記が対象)。
会社を設立する
当法人の会社設立サポートでは、お客様ご自身がマネーフォワード クラウド会社設立に情報を入力し、定款や登記申請書を作成します。登記の申請はお客様ご自身で行っていただきます(司法書士に依頼することもできます)。
会社の届出を出す
税務署への法人設立届出書は設立の日以後2か月以内、青色申告の承認申請書は設立の日以後3か月を経過した日と第1期の末日の早いほうの前日までです。熊本県への届出は10日以内、年金事務所への新規適用届は5日以内と短めです。一覧は熊本で会社を設立する流れにあります。
国民健康保険をやめる届出を出す
会社の健康保険に加入したら、加入した日から14日以内に、国民健康保険をやめる届出をします。熊本市では、お住まいの区の区役所区民課・総合出張所の窓口か、電子申請で出せます。保険料は、やめるまでの分が再計算されて精算されます。届出が遅れると、再計算できない期間の保険料の請求が残ることがあります(熊本市の案内)。住民税は前年の所得をもとに計算されるため、切り替えた年とその翌年は、個人事業のときの所得にもとづく住民税の納付が続きます。資金繰りに入れておいてください。
会社としてインボイスの登録を申請する
設立した課税期間の末日までに、課税期間の初日から登録を受けたい旨を書いて申請すれば、設立日から登録を受けたものとみなされます(免税事業者の会社でも、2029年9月30日までの日を含む課税期間なら、経過措置により課税事業者選択届出書は要りません)。この経過措置で登録した場合、登録日の翌課税期間から、登録日から2年を経過する日を含む課税期間までは、登録をやめても免税事業者に戻れません(第1期が1年より短いと、第3期まで及ぶことがあります)。簡易課税を選ぶなら、同じ第1期の末日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」も出します(上の「3. 消費税」参照)。
事業用の資産と契約を会社へ移す
在庫は会社へ売って引き継ぐのが基本です。備品・車や個人名義の事務所などは、会社へ売るか、個人のまま持って会社へ貸すかを決めます。売った場合、在庫の代金は個人の事業所得の収入に、備品・車の代金は原則として譲渡所得になります。貸した場合、建物・土地の賃料は不動産所得、備品・車の賃料は多くの場合は雑所得になります。社長(同族会社の役員)やその家族で、会社から給与を受け取っている人が、会社から賃料も受け取る場合は、金額が少なくても翌年以後も個人の確定申告が必要です(所得税法施行令第262条の2。法人成りした会社の多くは同族会社に当たります)。値段は時価が基準で、時価よりかなり安く移すと、時価との差にも課税されることがあります(目安は、備品・車なら時価の2分の1未満、在庫なら通常の販売価額のおおむね7割未満)。個人が消費税の課税事業者であれば、会社への売却代金や賃料にも消費税がかかります。ただし、土地の売却と、土地や住宅(社宅)の貸付けは、原則として非課税です。駐車場として整えた土地や、事務所の建物とあわせて貸す敷地の分は課税です。貸す場合の届出の扱いは、下の「個人事業の廃業の届出」を見てください。どの方法にするかで個人の側の税金が変わるため、試算の段階で決めておきます。事務所や車両の賃貸借・リース、口座、クレジットカード、保険、サブスクリプションの名義も切り替えます。
個人事業の廃業の届出を出す
下の表のとおりです。
翌年、廃業した年分の確定申告(所得税・消費税)をする
1月1日から廃業した日までの事業所得を申告します。会社から受け取った役員報酬(給与所得。会社で年末調整を受けていても合算します)や、在庫・備品・車などを会社へ売った場合の所得も、同じ申告に含めます(国税庁 No.2020)。廃業した年分の個人事業税は、見込額をその年の必要経費に入れることができます(所得税基本通達37-7)。入れなかった場合も、事業税の額が決まった日の翌日から2か月以内に更正の請求をすれば、廃業した年分の必要経費に入れられます。
消費税の課税事業者だった方(インボイスに登録していた方を含む)は、廃業した年分の消費税の確定申告も、翌年3月31日までに必要です。会社へ売った在庫・備品・車などの代金も、その年の課税売上に入ります。会社へ移さずに家庭用に回した車などは、時価で売ったものとみなされます(国税庁 No.6603)。2026年中に廃業する方は、要件を満たせば、この年分の申告で2割特例を使えます。
会社にしたあとも、次の場合は翌年以後も個人の確定申告が必要です。①同族会社から給与を受け取っている役員やその家族が、その会社から事務所・車などの賃貸料や、会社に貸したお金の利息を受け取る場合(給与が年末調整済みでも、金額が少なくても必要です)。②役員報酬などの給与の収入が年2,000万円を超える場合。③個人事業の青色申告で出た赤字(純損失)を、翌年以後に繰り越して差し引く場合(国税庁 No.1900・所得税法第70条第4項)。
個人事業の廃業の届出
| 提出先 | 書類 | 期限 |
|---|---|---|
| 税務署 | 個人事業の開業・廃業等届出書 | 廃業した年分の確定申告期限まで(2026年1月1日以後の廃業から。それまでは1か月以内) |
| 税務署 | 消費税の事業廃止届出書 | 速やかに(廃業した年に消費税の課税事業者だった場合。インボイスに登録していた方を含む。会社に事務所・車・備品などを貸して賃料を受け取るなど、個人に課税売上が残る場合は出さない) |
| 税務署 | 給与支払事務所等の廃止届出書 | 廃止から1か月以内(人を雇っていた場合。2026年1月1日以後の廃止は、廃業届とは別に出す) |
| 熊本県 | 個人の事業開始等届出書・個人事業税申告書 | 廃業・法人成りの日から1か月以内 |
消費税の事業廃止届出書を出すと、インボイスの登録は廃業した日の翌日に効力を失います(登録の取消しを求める旨の届出書は要りません。会社の登録は別に申請します)。一方、会社に事務所の建物や車・備品などを貸して賃料を受け取る場合は、個人の消費税の事業が続くため、事業廃止届出書は出しません(国税庁の案内の備考)。
インボイスに登録したままなら、賃料について個人の消費税の申告が続きます。登録していない場合は、各年の2年前の課税売上高が1,000万円を超える年などに申告が必要です。法人成りした年の2年後の判定には、その年の課税売上の合計を、年換算せずに使います。1月1日から法人成りまでの売上、会社へ売った在庫・備品・車などの代金、法人成りのあとに会社から受け取った賃料を合わせます。土地の売却と貸付け、住まいとして貸す住宅(社宅)の貸付けは非課税なので、課税売上に含めません。ただし、地面の整備やフェンス・区画などをして駐車場として貸す土地と、1か月未満の貸付けは課税です。事務所・店舗の建物を貸すときは、賃料を建物分と土地分に分けていても、全額が課税売上になります(国税庁 No.6213)。個人の登録をやめたいときは、事業廃止届出書ではなく「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を、やめたい年の1月1日の15日前の日までに出します。
会社への賃貸もやめて、課税売上になる事業をすべて終えたときに、その時点で消費税の課税事業者(インボイスに登録している方を含む)であれば、消費税の事業廃止届出書を出します。インボイスに登録しておらず、課税事業者選択届出書も出していない方で、2年前の課税売上高が1,000万円以下になった年は、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を速やかに出します。
会社から給与(役員報酬を含みます)を支払う場合は、会社の側で給与支払事務所等の開設届出書を、開設の日から1か月以内に出します。
廃業届の期限は、所得税法の改正により、2026年1月1日以後の廃業から確定申告期限までに変わりました(国税庁の案内・財務省「所得税法等の一部を改正する法律案要綱」)。一方、給与支払事務所等の廃止届出書の期限は、廃止から1か月以内のままです。同じ改正で、廃業届を出せば別に出さなくてよいという扱いもなくなったため、廃業届とは別に出します(所得税法第230条・国税庁の案内)。不動産所得・事業所得・山林所得を生ずる業務をすべて会社へ譲渡したり、やめたりした場合は、青色申告の取りやめ届出書を出さなくても、翌年分以後の青色申告の承認は効力を失います(所得税法第151条第2項)。廃業した年の分は、青色申告で申告できます。ご自身名義の建物や土地を会社に貸して家賃を受け取る場合は、不動産所得を生ずる業務が続くため、承認も続きます(車や備品の賃料は通常は雑所得なので、承認が続く理由にはなりません)。熊本県の個人事業税は、1月1日から廃業した日までの所得が対象で、事業主控除(年290万円)は月割りになります(熊本県の案内)。
誰に何を頼むか
手続きの多くは、ご自身(会社)でも行えます。代わりに頼む場合は、その手続きを業として代行できる資格が法律で決まっています。
| やること | 行う人/頼む先 |
|---|---|
| 設立登記の申請 | お客様ご自身(司法書士に依頼することもできます) |
| 社会保険の手続き(人を雇う場合は労働保険も) | 会社(事業主)ご自身。代行を頼む場合は、原則として社会保険労務士が担当する業務です(当法人ではお受けしていません) |
| 許認可の引き継ぎ・取り直し | お客様ご自身。書類の作成・申請を頼む場合は原則として行政書士(労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可は社会保険労務士) |
| 法人成りの試算、税務の届出、決算・税務申告 | お客様ご自身(会社)。代わりに頼む場合は税理士 |
まとめ
- 法人成りは税の差・社会保険料・消費税・取引先・事務と費用の5つで判断する。「所得800万円」は試算を始めるきっかけにとどめる
- 会社は社長1人でも原則として社会保険に加入。40〜64歳なら会社と本人を合わせて報酬のおおむね30%前後(厚生年金には標準報酬月額の上限があり、報酬が高いと割合は下がる)。家族を被扶養者にできるため、家族構成によっては国民健康保険・国民年金より合計が下がることもある
- 2026年10月以後に設立する会社は、2割特例も3割特例も使えない
- 熊本市で設立するなら、特定創業支援等事業の証明書で登録免許税が半分(2027年3月31日までの登記が対象。講座の修了と証明書の発行に1か月以上かかる)。法人成りでこの軽減を受けるには、個人事業の開業日から5年を経過する前に、証明書を取って設立登記まで済ませる(5年を過ぎた方は対象外)
- 熊本市内の会社の均等割は年81,000円〜で、赤字でもかかる
- 税務署に出す個人事業の廃業届の期限は、2026年1月1日以後の廃業から確定申告期限までに延びた。熊本県への届出と個人事業税の申告は、今も廃業・法人成りの日から1か月以内。人を雇っていた場合の給与支払事務所等の廃止届出書も、廃業届とは別に廃止から1か月以内
※この記事は2026年10月時点の法令にもとづく一般的な説明です。税率・保険料率・均等割は、市町村や事業年度、会社の規模によって変わります。令和8年熊本地震により、八代市・宇土市・宇城市・氷川町に納税地(個人は原則として住所地、法人は本店所在地)がある方は国税の、住所・主たる事務所・事業所がある方は県税の申告と納付の期限が延長されています(延長後の期限は別途告示。国税庁の案内・熊本県の案内)。実際の判断にあたっては税理士にご相談ください。





