「開業資金が足りない」「運転資金にどれくらい残しておくべきかわからない」——会社設立や開業のご相談では、資金調達の話がほぼ必ずセットになります。

創業期は営業実績が乏しいため、民間の金融機関だけで完結するプロパー融資(保証なしの融資)は選択肢が限られがちです。代表的な調達手段は、日本政策金融公庫の創業融資と、熊本県・熊本市の制度融資(信用保証協会付き)の2系統で、案件によっては民間の金融機関の融資や公庫との協調融資も使われます。

この記事では、代表的な2つの制度の中身と、審査で見られるポイントを整理します。

創業融資、代表的な選択肢は2系統

日本政策金融公庫 熊本県・熊本市の制度融資
貸し手 政府系金融機関(公庫が直接融資) 民間の金融機関(信用保証協会が保証)
融資限度額 7,200万円 熊本県3,500万円・熊本市2,000万円
金利の目安 制度・条件により変動 固定・低金利(後述)
窓口 公庫の支店(熊本支店) 取引金融機関・商工会議所など
特徴 枠が大きく、創業融資の実績が豊富 金利が低く、保証料の補助がある場合も

公庫と制度融資を併用できる場合もあります。設備投資が大きいときに、資金使途を分けて必要額を確保する組み方です。ただし同じ支出について重複して借りることはできず、資金調達の全体像を双方に開示したうえで、それぞれの審査を受けることになります。

日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」

創業融資の中心になる制度です。

項目 内容
対象 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
融資限度額 7,200万円
返済期間 設備資金20年以内・運転資金10年以内(据置期間は各5年以内
担保・保証人 新たに事業を始める方・税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で利用できます(審査があります)

「新創業融資制度」は2024年3月で廃止されています。 かつては「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」という形式要件がありましたが、現在の制度に自己資金の形式要件はありません。ネット上には旧制度の解説が多く残っているため、ご注意ください。

ただし後述のとおり、審査の実務では自己資金は今も重要です。要件がなくなったことと、審査で見られないことは別の話です。

女性、35歳未満の方、55歳以上の方などは、金利の優遇を受けられる場合があります。また、熊本市の特定創業支援等事業(創業セミナーなど)を修了して市の証明書を取得すると、公庫の金利優遇の対象になり得るほか、会社設立の際の登録免許税の軽減も受けられます。登録免許税の軽減は設立の登記より前に証明書を取得して登記申請時に提出する必要があり、会社形態や設立場所などの要件もあります。

熊本県・熊本市の制度融資

熊本県信用保証協会の保証を付けて、民間の金融機関から借りる仕組みです。主に次の2つの制度があります(2026年8月10日改正時点)。

  • 熊本県 創業者支援資金(一般枠) … 融資限度額3,500万円、融資期間10年以内(据置は原則1年以内)。金利は固定で、3年以内1.50%・5年以内1.65%・7年以内1.80%・7年超1.85%以内です。法人は、要件を満たす場合に「スタートアップ創出促進保証」を選んで経営者保証を不要にできます(保証料率の上乗せがあり、税務申告を1期終えていない場合は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要です)
  • 熊本市 中小企業創業サポート資金 … 融資限度額2,000万円、融資期間7年以内。金利は固定で、3年以内1.30%・5年以内1.45%・7年以内1.60%以内、信用保証料率は原則年0.35%です。熊本県外に1年以上住民登録があり、定住を目的として熊本市へ転入してから1年以内の方は、要件を満たすと信用保証料の全額補給を受けられます

金利・保証料率・限度額は改定されることがあります。お申し込みの際は、熊本県の融資制度の案内熊本市の融資制度の案内で最新の内容をご確認ください。

審査で見られるのは、この3つ

創業前や、まだ決算を迎えていない創業直後の申し込みには、過去の決算書がありません。そのぶん、次の3つが審査の中心になります。

1. 創業計画書の数字に根拠があるか

売上予測は「月商○万円になる見込み」だけでは通りません。客単価×客数、席数×回転率のように、数字を分解して根拠を示せるかが見られます。面談では計画書の数字について必ず質問されるため、自分で説明できない数字を書かないことが大切です。

2. 自己資金と、その貯め方

形式要件は廃止されましたが、自己資金は「計画性の証拠」として今も重視されます。 通帳の履歴で、毎月コツコツ貯めてきたのか、直前に誰かから振り込まれたのかまで見られます。

申込直前に親族などから一時的にお金を移して自己資金に見せる、いわゆる「見せ金」は、通帳の履歴でほぼ確実に見抜かれ、その後の信頼を失います。 親族からの支援を受けること自体は問題ありません。贈与や借入であることを正直に示したうえで、計画に織り込んでください。

3. 経歴と、事業との関連

開業する事業と同じ業界での勤務経験は、大きなプラス材料です。未経験の分野で開業する場合は、それを補う準備(研修・資格・協力者)を計画書で示します。

このほか、税金や公共料金・家賃の滞納、個人の信用情報の事故はマイナスに働きます。心当たりがある場合は、申し込む前にご相談ください。

申し込みの流れ

事前準備

創業計画書を作成し、自己資金・見積書(設備資金の場合)・許認可(必要な業種)を揃えます。ここで計画の数字を固め切れるかが、ほぼすべてです。

申し込み・面談

公庫の場合、申し込み後に支店での面談(またはオンライン)があります。計画書の数字について質問されます。

審査・融資実行

面談から融資実行まで、全体でおおむね1か月前後かかることが多いです。開業日や支払いの期日から逆算して、早めに動いてください。

設立や開業の手続きと、順番をあわせて考える

融資は単体で動くものではなく、会社設立・開業の段取りと絡みます。

  • 法人で借りるなら、登記が終わってからの申し込みになります。設立前に創業計画書の準備を進めておくとスムーズです
  • 資本金の額は融資審査でも見られます。会社設立の流れで書いたとおり、1円設立は可能でも、融資を考えるなら現実的ではありません
  • 借りたお金の使いみちは、あとで資金使途どおりに使ったかの確認があります。承諾なく別の用途に流用すると契約違反となり、全部または一部の繰上返済を求められることがあるほか、その後の融資審査にも大きく影響します

当法人は経営革新等支援機関(認定支援機関)として、創業計画書の数字づくり——売上予測の根拠、必要資金の積算、返済計画——を支援しています。計画書のフォーマットを埋めることではなく、面談で自分の言葉で説明できる状態を目指します。

よくあるご質問

Q. 自己資金がゼロでも借りられますか。

制度上は申し込めます。ただし実務では、自己資金なしで満額が通ることはまれです。開業を急がないのであれば、数か月でも貯めた実績を作ってから申し込むほうが、結果的に早く必要額に届くことが多いです。

Q. いくらまで借りられますか。

制度の限度額よりも、「必要額の根拠」と「返せる計画」で決まります。公庫に「自己資金の何倍まで」という公表された基準はありません。公庫の調査では、融資を受けた創業企業の自己資金は創業資金総額の平均2割程度です。必要以上に大きく借りようとすると、計画全体の信頼性が下がります。

Q. 開業してからでも申し込めますか。

申し込めます。公庫の制度は事業開始後おおむね7年以内が対象です。ただし開業後は実績(試算表)を求められるため、赤字が続いてからの申し込みは不利です。資金が必要になりそうなら、早めにご相談ください。

Q. 融資のためだけの相談もできますか。

はい。創業計画書の作成支援からお受けしています。設立の手続きや会計体制の整備とあわせてご相談いただくと、開業までの段取りを一本にまとめられます。

まとめ

  • 創業融資の代表的な選択肢は公庫(限度額7,200万円)熊本県(3,500万円)・熊本市(2,000万円)の制度融資。併用できる場合もある
  • 旧「新創業融資制度」は2024年3月で廃止。自己資金の形式要件はなくなったが、審査では今も重要
  • 審査の中心は創業計画書の数字の根拠・自己資金の貯め方・経歴
  • 見せ金は通帳の履歴で見抜かれる。親族の支援は正直に織り込む
  • 申し込みから実行までおおむね1か月前後。開業日から逆算して早めに動く

会社設立の手続きは熊本で会社を設立する流れ、会社形態の選び方は合同会社と株式会社の違いにまとめています。

※この記事は2026年8月時点の制度にもとづいています。金利・限度額・取り扱いは変更されることがありますので、お申し込みの際は日本政策金融公庫・熊本県信用保証協会の最新の案内をご確認ください。