「節税できるはずなのに、何を使えばいいかわからない」——確定申告のご相談でよくいただくお話です。
個人事業主の節税は、所得を減らすもの(控除・経費)と、税額そのものを減らすもの(税額控除)に分かれます。効き方も、使うために必要な準備も違います。
この記事では、実際に適用できる制度を効果の大きい順に整理します。制度の内容は2026年8月時点のものです。
1. 青色申告特別控除(最大65万円)
最も基本的で、最も確実に効くのが青色申告特別控除です。
| 申告の方法 | 控除額 |
|---|---|
| 白色申告 | なし |
| 青色申告(簡易帳簿) | 10万円 |
| 青色申告(複式簿記) | 55万円 |
| 青色申告(複式簿記+e-Taxまたは優良な電子帳簿保存) | 65万円 |
55万円・65万円の控除には、複式簿記での記帳に加えて、貸借対照表・損益計算書を添付して、期限内に申告することが必要です。期限に1日でも遅れると、その年の控除は10万円に下がります。
そのうえで65万円にするための上乗せ条件が、e-Taxでの申告(または訂正・削除の履歴が残る「優良な電子帳簿保存」)です。クラウド会計ソフトを使っていれば複式簿記と決算書の作成はソフトが行うため、実務上の追加のひと手間はe-Taxだけというケースがほとんどです。
65万円控除の効果(目安)
- 所得税率20%の場合 … 約13万円
- 住民税10%を合わせると … 約19.5万円
まだ白色申告の方は、切り替えるだけでこの差が出ます。
青色申告承認申請書の提出期限は、その年の3月15日です。新規に開業した場合は開業日から2か月以内。この期限を過ぎるとその年は青色申告にできません。年末に「今年の分を青色に」はできない点にご注意ください。
2. 経費の計上漏れを見直す
「これは経費にしていいのか」と迷って計上しなかった支出はありませんか。事業に関連する支出は、適切に経費として計上することが節税の基本です。
見落としやすいものを挙げます。
- 自宅兼事務所の家賃・水道光熱費(事業使用分を家事按分)
- 携帯電話・インターネットの料金(事業使用割合で按分)
- 事業に関連する書籍・セミナー費用
- 交通費・出張費(交通系ICカードの履歴も確認)
- 取引先との接待交際費
- ソフトウェア・サブスクリプションの利用料
家事按分で大事なのは、合理的な基準を決めて、その根拠を説明できるようにしておくことです。家賃なら仕事に使っている面積の割合、通信費なら使用時間の割合というように、後から聞かれて答えられる決め方をしてください。割合そのものより、根拠がないことのほうが問題になります。
青色事業専従者給与
配偶者やご家族に事業を手伝ってもらっている場合、青色申告であれば支払った給与を全額必要経費にできます。適用には「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要で、金額は労務の対価として相当な額に限られます。
3. 小規模企業共済
個人事業主のための退職金制度です。掛金は月額1,000円〜70,000円で、全額が所得控除になります。
掛金が月7万円の場合(目安)
- 年間の掛金 … 84万円
- 所得税率20%+住民税10%なら … 年間約25.2万円
受け取るときは退職所得または公的年金等の雑所得として扱われ、そこでも税制上の優遇があります。事業資金として使える貸付制度もあります。
ただし、加入期間が20年未満で任意解約すると元本割れします。 長く続けられる金額で始めてください。
4. iDeCo(個人型確定拠出年金)
自分で掛金を出して運用し、老後の資金を準備する制度です。掛金は全額が所得控除になります。
個人事業主(国民年金の第1号被保険者)の掛金の上限は月額68,000円(年間816,000円)です。国民年金基金や付加保険料と合わせた上限になります。
掛金が月68,000円の場合(目安)
- 年間の掛金 … 81.6万円
- 所得税率20%+住民税10%なら … 年間約24.5万円
第1号被保険者の拠出限度額は、月額75,000円に引き上げられる予定です。 2026年12月の拠出分(2027年1月の引き落とし分)からの適用が見込まれています。あわせて加入できる年齢の上限も引き上げられます。現在すでに上限まで拠出している方は、時期が来たら見直してください。
小規模企業共済との違いは、iDeCoは運用を伴う点です。元本確保型の商品もありますが、運用のリスクがあることは理解しておいてください。また、原則60歳まで引き出せません。 当面使う予定のない資金で始めるのが基本です。
5. 少額減価償却資産の特例
青色申告をしている個人事業主は、一定額未満の資産を購入した年に、その全額を必要経費にできます(通常は数年かけて減価償却します)。
2026年4月1日以後に取得したものから、対象が「取得価額40万円未満」に引き上げられました。(それ以前に取得したものは30万円未満です。)年間の合計限度額は、いずれも300万円までです。
- ノートパソコン 25万円 → 購入した年に全額を経費に
- 業務用ソフトウェア 15万円 → 同上
- オフィス家具 20万円 → 同上
この特例は令和8年度の税制改正で3年延長されており、あわせて常時使用する従業員が400人を超える事業者は対象から外れました。個人事業主の場合、この人数要件に当たることはまずありません。
償却資産税(固定資産税)まで含めて考えると、取得価額10万円以上20万円未満の資産は、この特例ではなく「一括償却資産」として3年で経費化したほうが有利になる場合があります。 一括償却を選んだ資産は償却資産税の対象外になるためです。設備投資の額がまとまるときは、購入前にご相談ください。
6. 賃上げ促進税制(人を雇っている方向け)
ここまでは所得を減らす制度でしたが、賃上げ促進税制は税額そのものを直接減らす制度です。効き方が違うため、対象になるなら優先度は高くなります。
従業員に支払った給与の総額が前年より増えていれば、増加額の一定割合を所得税額から差し引けます。 青色申告をしている個人事業主が対象で、令和7年分から令和9年分(2025年分〜2027年分)の確定申告で使えます。
| 要件 | 控除率 |
|---|---|
| 給与等支給額が前年比 +1.5%以上(通常要件) | 増加額の 15% |
| 給与等支給額が前年比 +2.5%以上 | +15%(合計30%) |
| 教育訓練費が前年比+5%以上、かつ給与等支給額の0.05%以上(2026年分まで) | +10% |
| くるみん認定以上、またはえるぼし認定(2段階目)以上を受けている | +5% |
| すべて満たす場合 | 最大45%(2026年分まで) |
教育訓練費の上乗せ(+10%)は、令和8年度税制改正で廃止されました。 個人事業主の場合、使えるのは2026年分(令和8年分)の申告までで、2027年分(令和9年分)からは**最大35%**(15%+15%+くるみん・えるぼし5%)になります。教育訓練費の上乗せを見込むなら、2026年分が最後の機会です。
控除できる金額の上限は、その年の事業所得にかかる所得税額(調整前事業所得税額)の20%までです。上限を超えて控除しきれなかった分は、5年間くり越せます(中小企業・個人事業主のみの措置)。赤字などで控除しきれなかった年があっても、翌年以降に使える可能性があります。
事業主本人への給与や、青色事業専従者(生計を一にする親族)への給与は対象になりません。 この制度でいう「雇用者」からは、事業主と特殊な関係にある人が除かれるためです。家族だけで営んでいる事業では適用できません。
7. そのほか、この時期に確認しておきたいもの
インボイスの2割特例(2026年分まで)と3割特例(2027年分から)
免税事業者からインボイス発行事業者になった方は、納める消費税を売上にかかる消費税の2割にできる特例があります。
この特例が使えるのは、個人事業主の場合2026年分(令和8年分)の申告までです。
その後どうなるかですが、令和8年度税制改正で「3割特例」が設けられました。インボイスを機に免税事業者から課税事業者になった個人事業主で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下などの要件を満たす場合、2027年分・2028年分(令和9年分・令和10年分)は納める消費税を売上にかかる消費税の3割にできます。2割特例と同じく事前の届出は不要で、申告のときに選べます(法人は対象外です)。
簡易課税を選ぶ場合、届出書の提出期限は原則として「適用しようとする年の前年12月31日まで」です。ただし2割特例・3割特例を適用していた方には経過措置があり、その翌年から簡易課税にする場合は、その年の消費税の申告期限までに届出を出せば間に合います(たとえば2026年分で2割特例を使った方が2027年分から簡易課税にするなら、期限は2028年3月31日です)。1年分の売上が見えてから決められるということです。
とはいえ、2割・3割特例、簡易課税、本則課税のどれが有利かは業種と設備投資の予定で変わります。大きな設備投資を予定している年は本則課税が有利になることが多いため、前もってご相談ください。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産に備える共済で、掛金は月5,000円〜200,000円、掛金の総額800万円まで積み立てられます。掛金は全額を必要経費にできます。
ただし2024年10月1日以後に解約した場合、解約の日から2年を経過するまでに再び契約した掛金は必要経費にできません。 「解約して再加入」をくり返す使い方はできなくなっています。
まとめ
| 制度 | 効き方 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 所得を最大65万円減らす | 複式簿記+e-Tax、期限内の申請 |
| 経費の見直し・家事按分 | 所得を減らす | 合理的な基準と根拠 |
| 小規模企業共済 | 所得を減らす(全額控除) | 20年未満の任意解約は元本割れ |
| iDeCo | 所得を減らす(全額控除) | 原則60歳まで引き出せない |
| 少額減価償却資産の特例 | 所得を減らす | 青色申告、40万円未満・年300万円まで |
| 賃上げ促進税制 | 税額を直接減らす | 青色申告、従業員への給与が前年より増加 |
制度は「知っているかどうか」ではなく、期限までに届出をしているかどうかで使えるかが決まるものが多くあります。青色申告承認申請書と青色事業専従者給与の届出書は、後から遡れません。
※この記事は2026年8月時点の法令にもとづく一般的な説明です。適用の可否や有利不利は事業の内容によって変わりますので、実際の判断にあたっては税理士にご相談ください。


